知らない間に解決した2022年問題と、知らない間に発生した2032年問題 2019.5.21
不動産は物理的には動かないものの、法制度に関してはめまぐるしい変更があります。今回はちょっと前に話題になった2022年問題が、その後すっかり変わっていたお話をさせて頂きます。
(2022年問題とは)
あらためて不動産に関連した「2022年問題」というのを説明しますと、2022年に生産緑地の指定が終了することに伴い、宅地が大量に供給され、地価の大幅な下落や空き地の大量発生が起こることが懸念される問題であります。
そもそも生産緑地法は1991年に法改正され、市街化区域内の農地は生産緑地か否かに区分されました。生産緑地に指定された土地は農地としてそのまま使い続けることを前提に固定資産税が低く抑えられてきました。一方、その他の農地は宅地並みに課税がされたことで、多くの農地は転用されました。
そして生産緑地の税金が抑えられている期間を30年とし、指定後30年を経過した2022年には本来なら自治体がこの農地を買い取ることが約束されていました。
しかし、地方財政が年々厳しくなり、現実には自治体が買い取るのは不可能と予想されています。
自治体の買い取りは見込めず、後継者も不足し、固定資産税も上がり土地を持ち続けていくのが困難になる地主の最終的な選択肢としては、生産緑地を解除して、土地を処分するしかありません。
そのような農地が全国に13,000haもあるため、2022年は一気に需給バランスの崩壊が起こることが懸念されていました。
(特定生産緑地制度という解決策)
このように問題視されている生産緑地ですが、この指定が終了することで以下のようなメリットが生じると考える人もいます。
①市街化区域内でまとまった土地はマンション用地として利用できる
②周囲に宅地化が進行していれば、賃貸住宅等の有効活用ができる
③農業法人等の新しい担い手に貸して、商品価値の高い農産物を作ってもらう
これらの前向きな民間の取り組みに対して、行政はどんな後押しをするのかと思ったら結局の解決方法は「特定生産緑地制度」の新設でした。
この「特定生産緑地制度」は、2019年4月に制定され、それは生産緑地指定から30年経過が近づいた農地を、市町村が特定生産緑地として指定することで、税制優遇を継続させ、買取りの申出をすることができる時期を10年間先送りにすることが出来る制度です。
この制度を利用するには特定生産緑地指定意向申出書の提出という手続きは必要になるものの、その選定要件は「農地として保全することが良好な都市環境のために有効であるもの」という抽象的なものであるため、所有者が望めばほぼ指定されると考えてよさそうです。
簡単にいえば、生産緑地制度を10年間先延ばしする制度が特定生産緑地制度といえます。
(2032年問題は生じないのか?)
特定生産緑地制度は確かに税制優遇を継続できますが、地方自治体が延長した10年後である2032年に買い取ることができる可能性はますます少なくなります。
そして農業の担い手不足問題に関しては何ら対策が打てているとは思えず、結果として「問題の先送り」という解決方法としか思えません。
私もかつて東京の世田谷で住んでいましたが、確かに周りは生産緑地が多く、何億もするような豪邸の隣で、無人販売により一束100円で大根を売っていたのを覚えています。
都市に緑地が残るという点ではいいですが、その地主の多くは、固定資産税上のメリットが大きいのでしぶしぶ営農を続けており、このような生産性の低い農地が都市のあちらこちらに点在しつづける状態がこれからも維持されることがいいことなのかは少々疑問であります。
そして地主にとっては、今回は特定生産緑地になって2022年問題を切り抜けても、10年後には世代も変わり、やはり農業が続けられず生産緑地をやめることになれば、猶予されている相続税に加え、さらに膨らんだ利子税を払わなければならないという恐怖が待っていそうであります。
近年、田園居住地域という用途地域が作られ、市街化区域内でも田畑と市街地の共存をはかる街づくりが注目されていますが、あくまでも住宅の環境保護が主目的であって、農地を守るものではありません。
このように「特定」などがつくと新制度かと思いがちですが、その中身をよく吟味すると単なる問題の先送りということがあります。
突然の解決方法が作られて急に話題にならなくなった2022年問題ですが、潜伏期間を経て、再び話題となったときに、もっと問題が深刻で複雑なものになってはいないかと心配されます。