古くて新しい、東京駅と空中権
2012/10/05
古くて新しい、東京駅と空中権
今週の10月1日に5年に及ぶ復旧工事を経て、東京駅が全面開業したようです。東京というより日本の玄関口である東京駅の歴史ある建築物が甦り、美しい赤レンガやドームに目を奪われますが、不動産鑑定士としてはその事業費の捻出方法にも着目したいとこです。
東京駅は都市計画上もっと高層な建物を建てることが認められ、その建物を建ててもいい権利(いわゆる容積率)が余っており、それを譲渡することが認められる「特例容積率適用区域」に位置していました。そこでJR東日本は、この”余剰容積率”を売って約500億円といわれている事業費の一部を売って捻出したようです。
この”余剰容積率”が一般に”空中権”といわれ、一定の要件を満たし、かつ購入を希望する買い手が現れたため値段が付けられ、売買となったようです。
なんだか東京らしい、斬新な手法っぽいですが実は空中権の譲渡自体は開発権の移転(Transferable Development Right:TDR)としてはアメリカでは州によって違いますが1960年代には法整備化されるなどかなり以前から存在するスキームであり、いままで日本でも東京オペラシティなどすでにいくつかの事例が存在しています。
そういう意味では別に目新しい手法というわけではないのですが今までの日本の事例は右肩あがりの経済を前提とし、より床面積を増やす手法として利用され、高くなった方のビルばかりが着目されたのに対し、この東京駅の場合は歴史ある建物を保護していくということが主眼になっていることが違うのかなと感じています。
というのも、実はもともとこのTDR自体は都市の再開発という側面に加え、歴史的建造物の保存や緑地等の自然環境を保全するための費用を捻出するという、歴史的資産や環境を守るためのスキームという側面があります。
ニューヨークなどではこのTDRを活用して、歴史的な建物の保護が行われてるようですが、今回の東京駅の事例はそれに近いような感覚があり、非常に偉そうですが「東京が大人の街になったな~」という感覚を持ちましたね-。
”空中権”という言葉自体はあまり耳慣れないのでお聞きになった方は、「へー、空って売れるのか、じゃあうちの空も売ろうかなー」なんてお考えも方も多いでしょうが、残念ながらそれが認められるには容積率の売買を認める特別な地区に指定され、かつ購入者が現れなければならないので、あちらこちらで実現可能というわけではありません。
ただ都心で歴史的な建築物の維持保存費用に頭を痛めている所有者や地方自治体は、こういう手法があることを是非ご理解頂きたいと思います。さらに、証券化などを絡めれば、例えば札幌ならば赤レンガ庁舎の余剰容積率を証券化し、ひと坪地主ならぬ”ひと坪空主”を募って、街の資産を守る方法も理論的には可能なので、環境問題が重要視されている今日に”新たな手法”として見直されるといいですね。
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